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2024/01/30 17:42

2023.10.09
  
 
皆さん、お元気でお過ごしですか?今年も茹だるような猛暑続きの夏でしたが、やっと暑さも和いで秋らしくなってきましたね。こちらランカスターは、昼間はまだ暑くなる事があるものの、朝夕は10度前後まで下がる日が増えてきました。気付けば日も短くなってきて、平日は朝6時に起床するのですが窓の外はまだ真っ暗です。部屋の電気をつけて、起きた気がしないなぁと思いながら寝ぼけ眼で娘のお弁当を作り、そろそろ家を出る7時過ぎになってやっと明るくなってきます。
 
久し振りに好きなセ-タ-を取り出して庭に出ると、朝焼けで空はピンク色に染まり、冷たい空気は新鮮で心地良く、シャキッと一気に目が覚めます。

夏の終わりはいつも名残惜しいのですが、秋の朝は気持ちをリセットさせてくれて良いものだなぁと感じる今日この頃です。

春からずっと私達を楽しませてくれた庭の草花も、秋風に揺られながらぽろぽろと種を地面にこぼすようになりました。じっと目を凝らして観察すると、種だけでなくそれを覆っている殻なども繊細で形態が様々なことに驚きます。ハナアオイの種はまるで小さなカタツムリ、殻はシイタケの裏側のようです。矢車菊の種はちっちゃな化粧用の筆?ポピーやキツネノテブクロの種などはクシャミをしたら飛んでいってしまいそうなくらい小さいのですが、でもよく目を凝らすとやはり形や色に違いがあるのが分かります。雪の結晶などと同じように、普段私達が気付かずにいるけれども、実は美しいものが私達の身の回りには沢山あるという事にまた気付かされました。
 



大都会から田舎へ移り、自然が豊かな環境で生活をするようになったことで、植物だけでなく動物や昆虫などもより身近に感じるようになりました。庭付きの一軒家なので、虫達とは同居しているようなものです。鳥の種類も多く、コンコンコンと音をたてて樹を突くキツツキや、ヘリコプターのように宙で止まったり、後ろ向きでも飛べるハミングバ-ド(ハチドリ)を初めて庭で見た時は嬉しくて思わず舞い上がりました。グラウンドホッグやアライグマ、オッポサムなどは、今でも見かける度につい息を止めてジ-ッと見つめてしまいます。

そしてその分、彼らの死を見かける事も以前よりとても多くなりました。アメリカの田舎だからか外で鳥や動物の死骸を見かけても片付けられずに、道や空き地の片隅にずっと残っている事が多いのです。東京やNYではあり得ない事だったので、これはけっこうカルチャーショックでした。ある朝、散歩道でオポッサム(ネズミとアナグマを足したような見た目でサイズは大きめの猫くらいでしょうか)の死骸を見つけた時は思わず驚きギャッと飛び上がってしまいました。それから毎日、目を伏せて少し避けるように歩いていましたが、怖いという気持ちと同時に風化していく様子は興味深くもありました。視野の片隅からでも段々と形を変えていくのは分かります。雨に打たれ風に吹かれ、少しずつ自然に風化していきそして3ヶ月ほど経ってやっと宙へと消えて行きました。その後も、猫や鳥の死骸を同じように見かけることが時々あります。出来れば避けたい経験なのですが、でも考えてみると実は意外にも自分にとって貴重な良い体験になっているのかもしれないと、最近思うようになりました。否応なしだという事もありそれはショック療法のようなのかもしれません。振り返ってみるとそれは〝死を見た〟というよりも〝命を見た〟という印象に代わってきているように感じるからです。

実は、今年はこれまでの私の人生の中で一番、大切な方々とお別れをしなくてはいけない事が多く、悲しく心が揺れる事が多い一年でした。
今まで感じた事のなかったような想いが重なることが多いからか、空を見上げるとふと気持ちが遠くへ滲んでいくようで、朝夕関係なくつい時間を忘れてしまいそうになります。命には限りがあるのは当たり前だと分かっているのに、いつまで経っても慣れず、いつも初めての事のようでとても戸惑いました。特に父親との別れは自分にとってやはり特別なものでした。父は90歳を越え、また長い間闘病していたという事もあり心の準備は出来ていたつもりでしたが、その日が来ると想像以上に冷静な自分がいると同時に、もの凄くたくさんの感情の海にザブンと放り出されたような感覚に圧倒されてしまいました。けれどもこの数年、自然豊かな環境に身を置いて動植物の逞しさや儚さ、美しさに触れながら沢山の命を見れた事が、大きな助けと慰めになっているように感じています。
 
今年、87歳で亡くなったムツゴロウさんは晩年「動物と一緒で自然にかえるだけ」とおっしゃっていたそうですが、私の大切な方々はこの自然美しさの一部に還っていったのだと思うと、ス-ッと寂しさが消えて、自分もその温かい自然の中に包まれているような気持ちになりました。

もう少しするとまた寒い冬がやってきます。地面に溢れ落ちた種達は、春になったらまたたくさんの芽を出してくれる事でしょう。それを楽しみにしながら、この静かな秋の夜長をゆったりと過ごしたいと思っています。



カヒミ カリィ

ミュージシャン、文筆家、
フォトグラファー 。91年デビュー以降、
国内外問わず数々の作品を発表。
音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、
字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまで
カルチャー誌や文芸誌などで写真
執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。

http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official